誰もが理解したいデジタルサイネージ

ロンドンの北に住んでいた彼は、自分の見通しに基づいて、シティの中心部のあのフラットを買ったのだ。
それまでの住居もこの数年でずいぶん値上がりしていたので売却し、その資金をもとに、新たなフラットを手に入れたに違いない。 住居としては、勤務先まで歩いて五分だから至極便利だ。
そして、それほどの物件だから、価格の上昇が期待出来る。 住居として使いながら、投資の果実も狙っているわけだ。

彼は日本人だが、前にも書いた通り、すでに二十年もイギリスに住んでいる。 ずっと外資系企業での勤務だ。
風貌もそうだが、感覚も日本人離れしたところがある。 長年の経験と勘を活用しながら、不動産市場の動向にじっと目を凝らしている。
大きな物件が専門の彼にとって、八○年代後半から九○年代前半のイギリスの市場はきびしいものだった。 不景気と高金利が重なり、不動産取引はばったり途絶えた。
その頃、彼はシティの投資銀行で不動産投資に携わっていた。 らえたのだ。
三年前に四十万ポンド(七千六百万円)で買ったN氏のフラットは今、二倍の八十万ポンド(一億五千二百万円)にはね上がった。 N氏はもっと上がると読んでいる。
逆境の時は耐え、風が起きた時に素早くそれに乗ったN氏には、農耕民族から狩猟民族に転換したような、シティの日本人のしたたかさが感じられる。 「どこかのフラットをお買いなさい、まだ間に合いますよ」今でも会う度に、N氏は私にそうアドバイスをしてくれるのだ。

「大きな不動産の取引がないのです。この商売は、動かない時は全く動かないですからね。辛抱強く風向きが変わるのを待つしかありません。会社から高い給料を貰いながら、私は何も利益に貢献せず、ひたすら不動産相場に次の波が来るのをじっと待っている。これも辛いものですよ」一度、彼からそのような言葉を聞いたことがある。 もう十年も昔のことだ。
どんなに優秀であろうと、シティは実績をあげていないと評価されない場所だ。 債券相場や株式相場に波があるように、不動産相場にも波がある。
N氏のように大型物件専門の場合、相場の好不調の波動は証券の相場よりは大きい。 しかし、九六年ごろから風向きが変わって来た。
金利の低下と景気の復調とともに、不動産価格は上昇に転じ、それも急ピッチで値上がりした。 その風をN氏はうまくとN氏は不動産畑の人だから、その相場にはとくに詳しいが、投資を兼ねて良質の住宅を購入しているのは、彼だけではない。

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